大津幸四郎 (映画カメラマン)
『朱鷺島』はかつて佐渡に生息した天然記念鳥トキの死を愛惜する島人達が、プロの能楽者と組んで創作、上演した能楽一番である。
謡はトキの世話もしたという地元の小学生たちの詩から採られた。囃子方には佐渡の太鼓集団「鼓童」が参加、地元の舞踏集団も花を添える。舞台作りから衣装造りまで(注1)、全て、島人の手で行なわれた地方色豊かな薪能である。
トキは往時田圃(たんぼ)を踏み荒らす困り者だった、そんな言い伝えを聞いていた踊りの女衆は、鳥追いの優雅な踊りから舞台を始めた。その舞踏は能の舞台を彩り、公演を息づかせ、時代の脂(やに)に染まった能楽堂に閉じ込められた能を、ともすれば黴臭く淀み、眠りを誘いかねない古典能の概念を一変させ、演者達を自由な芸術の野に放ち、ポップアートとしての能を堪能させた。そんな魅力に富んだ民衆能の世界を、『朱鷺島』のカメラは禁欲的に静かに見つめ続け、記録した。その端正な映像はこれまた静かな語りの流れを縦糸に、島人をはじめ、出演者の能舞台にかかわる意欲的な姿を横糸に、ちょっと厚手のタペストリーに織り上げられた。しばし手に触れてみるに値するタペストリーに。
注1)能楽師の衣装は実際には能楽師が所持する衣装を組み合わせたものである。鼓童/花結が扮する「村人」の衣装は地元鼓童の手によるものかもしれない。
配給:「朱鷺島」上映委員会/後援:佐渡市 佐渡市観光協会/2007年/カラー/Digital/4:3/81分
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